草野心平「わが抒情詩」。終戦直後の詩にもかかわらず、なぜだか心に響く。

わが抒情詩

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仕事の関係で合唱曲をよく聴きます。数多くの合唱曲に触れる中で幾つかの詩、幾人かの詩人が心に留まる事があるので、たまに紹介していこうかなぁと考えています。

今回は草野心平さんの「わが抒情詩」。

草野心平とは?

草野心平は1903(明治36)年5月12日、福島県石城郡上小川村(現在のいわき市小川町)に生まれた詩人です。俗に「蛙の詩人」と言われるほど蛙をテーマとした詩を生涯にわたって書きつづけた事でも知られています。

福島県いわき市小川町には「いわき市立草野心平記念文学館」が建てられています。いつか行ってみたいと思う場所の一つです。彼についての詳しい事はこちらを見ていただくと良いと思います。

「わが抒情詩」について

草野心平の生き方を表している作品

彼は第二次世界大戦中、「帝都日日新聞」の記者として満州に渡り、そのときの模様を『支那転々』にまとめています。その後も南京に成立した中華民国国民政府の宣伝部顧問として終戦まで南京に滞在していました。

この「わが抒情詩」という作品は詩集「日本砂漠」という詩集に収められており、この詩集は戦後日本に戻ってきた草野が初めて出した詩集となっています。

久しぶりに戻ってきた日本は、いたるところ瓦礫の山だった。そんな瓦礫の中で、草野は改めて生きることの意味を問わないではいられなかった。詩集「日本砂漠」は、そんな問いかけとそれへの答えを模索する作品からなっている。

引用元:日本語と日本文化

僕の個人的な感想とオススメする理由

この作品と出会ったのは最初に書いた通り、合唱に触れる中で知った一遍。合唱に使われる際に大幅にカットされている部分がありますが、その世界観や伝えたい事は妙に心に刺さってきたのを覚えている。

この作品は先にも書きましたが、草野が満州から引き上げてきて瓦礫の山となってしまった日本を見て書かれています。そういった背景を知らずに僕はこの作品と出会ったわけですが、終戦直後の世界というよりも「今」僕たちが生きている「現代」を歌っているように聞こえました。

くらあい天(そら)だ底なしの。
くらあい道だはてのない。

詩の中で繰り返し出てくる「くらあい」。「暗い」ですね。この言葉が繰り返されるたびに世界観へ引きずり込まれていってしまうのは僕だけかもしれませんが、是非読んでもらいたいです。

「くらあい」と歌ってはいるけれど、本当は周囲は明るいんだと思うのです。暗い、暗いと歌っているのですが、なぜか灯りがある事を感じさせます。これが文学的に正しい解釈なのかは知った事ではないんですけどね。

わが抒情詩[詩集「日本砂漠」から]全文

わが抒情詩 草野心平

くらあい天(そら)だ底なしの。
くらあい道だはてのない。
どこまでつづくまつ暗な。
電燈ひとつついてやしない底なしの。
くらあい道を歩いてゆく。

ああああああ。
おれのこころは。
どこいつた。
おれのこころはどこにゐる。
きのふはおれもめしをくひ。
けふまたおれは。
わらつてゐた。

どこまでつづくこの暗い。
道だかなんだかわからない。
うたつておれは歩いてゐるが。
うたつておれは歩いてゐるが。

ああああああ。
去年はおれも酒をのみ。
きのふもおれはのんだのだ。
どこへ行つたか知らないが。
こころの穴ががらんとあき。
めうちきりんにいたむのだ。

ここは日本のどこかのはてで。
或ひはきのふもけふも暮してゐる。
都(と)のまんなかかもしれないが。
電燈ひとつついてやしない。
どこをみたつてまつくらだ。
ヴァイオリンの音がきこえるな。
と思つたのも錯覚だ。

ああああああ。
むかしはおれも。
鵞鳥や犬をあいしたもんだ。
人ならなほさら。
愛したもんだ。
それなのに今はなんにも。
できないよ。

歩いてゐるのもあきたんだが。
ちよいと腰かけるところもないし。
白状するが家もない。
ちよいと寄りかかるにしてからが。
闇は空気でできてゐる。

ああああああ。
むかしはおれも。
ずゐぶんひとから愛された。
いまは余計に愛される。
鉄よりも鉛よりも。
おもたい愛はおもすぎる。
またそれを。
それをそつくりいただくほど。
おれは厚顔無恥ではない。
おれのこころの穴だつて。
くらやみが眠るくらゐがいつぱいだ。

なんたるくらい底なしの。
どこまでつづくはてなしの。
ここらあたりはどこなのだ。
いつたいおれはどのへんの。
どこをこんなに歩いてゐる。

ああああああ。
むかしはおれのうちだつて。
田舎としての家柄だつた。
いまだつてやはり家柄だ。
むかしはわれらの日本も。
たしかにりつばな国柄だつた。
いまだつてやはり国柄だ。

いまでは然し電燈ひとつついてない。
どこもかしこもくらやみだ。
起床喇叭はうるさいが。
考へる喇叭くらゐはあつていい。

ああああああ。
おれのこころはがらんとあき。
はひつてくるのは寒さだが。
寒さと寒さをかちあはせれば。
すこしぐらゐは熱がでる。
すこしぐらゐは出るだらう。

蛙やたとへば鳥などは。
もう考へることもよしてしまつていいやうな。
いや始めつからそんな具合にできてるが。
人間はくりかへしにしても確たるなんかのはじめはいまだ。
とくにも日本はさうなので。
考へることにはじまつてそいつをどうかするやうな。
さういふ仕掛けになるならば。
がたぴしの力ではなくて愛を求める。
愛ではなくて美を求める。
さういふ道ができるなら。
例へばひとりに。
お茶の花ほどのちよつぴりな。
そんなひかりは咲くだらう。
それがやがては物凄い。
大光芒にもなるだらう。

ああああああ。
きのふはおれもめしをくひ。
けふまたおれはうどんをくつた。
これではまいにちくふだけで。
それはたしかにしあはせだが。
こころの穴はふさがらない。
こころの穴はきりきりいたむ。

くらあい天(そら)だ底なしの。
くらあい道だはてのない。

引用元:日本語と日本文化

合唱になった草野心平「わが抒情詩」

 

わが抒情詩

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